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全部ある

 奈良の生駒山麓に畑を借りている。先週、9月の最後の日、オクラはまだまだ生気盛んだった。背丈は私と競うほどになり、茎は木の幹のように太く逞しくなっている。葉っぱを思い切り手のパーの形に広げ、取り損ねた実がにょきにょきツノのように伸びている。私の顔ほどの大きさもある花の、雌しべの周りには黒いゴマ粒ほどの小さな虫がうじゃうじゃと蠢き、萼には黄金虫が1匹、メタリックな体を光らせている。薄く柔らかな花びらは、太陽の光を柔らかく透かしている。オクラの足元にはマクワウリのツルが走り、これも取り損ねた実が、濃厚な甘い香りをさせて半分溶けかかっている。ここにも小さな黒い虫が無数にたかっていた。地面に這うようにして、小さなスミレのような花、もっと小さな白い金平糖のような花が散らばる。そもそも畑を始めたのは、アタマでなくて体を通してデザインをしたいと思ったからだ。自然とつながることがそれのヒントになるんじゃないかと思ったから。そんなもくろみは忘れて、そこにあるたくさんの命の様相に、私は立ち尽くして陶然となる。長靴を脱ぎ、靴下も脱いで裸足で立つ。